LOGINその夜。
俺はなかなか寝付けなかった。 国王の妹……つまり俺たちの叔母ってことだよな。 暗殺されたとか怖すぎだろ。 なんでそんなことが起きるんだ? 誰かの恨みを買っているとか……? 超怖いんだけどそれ。 そんな怖いゲームだったのこれ? ギャルゲーはもっと平和だった……かなぁ。 俺は何度目かの寝返りを打ち、大きく息を吐いた。 なんで俺、こんな世界に来ちゃったんだろう。 ここに来る前に俺、何があったんだろうな……そこはよく思い出せない。 なんかスマホがうるさくて揺れたような気がするんだけど、もしかして大地震でもあったのかな。 だとしたら俺、地震で死んだとか? ……まさかな。そんなことあるわけないよな…… でもカタカタと身体が震え、俺は布団を頭まで被ってぎゅっと目を閉じた。 眠れなかった。 全然眠れなかった。 侍従に起こされて仕方なくベッドから這い出て、顔を洗って鏡を見ると酷い顔をしていた。 「うわぁ……」 今日は水曜日、週の半ばだ。 明日も明後日も大学がある。 それを考えると辛いなぁ…… 朝食の席でマリアに心配されたけれど笑ってごまかし、今日も大学へ行く。 一限目は国語で、大きな講義室での講義となる。 大きな欠伸をして、俺は机に突っ伏した。 身体が辛い。 もしかしたら俺は死んだのかもしれない。 そう思うと身体の震えが止まらなくなる。 春野京佑になにがあったのか全然わからない。だけど今、俺はルカ、なんだよな。 ルカとしての記憶と、春野京佑としての記憶が両方あるけど、ここでは俺、ルカなんだ。 もし春野京佑の身体が亡くなっていたら……? そう思うと怖くてたまらないけどでも、今はルカとして生きるしかないんだ。 そう思い俺はぎゅっと、手を握る。 昨日、頭上から響いた声は今日、聞こえてこない。 そもそも国語の講義なんて、二年生であるエドアルドが受けるわけないか。 って、なんで俺、あいつに会いたいと思ってるんだろ。 俺は今、超怖い。 何が怖い? 今、ここにいるっていう現実が。 しばらくして教授が来て講義が始まる。 何とか顔を上げて講義を受けたけど、全然頭に入らなかった。 たった九十分の講義だけど倍以上に感じて妙に疲れた。 ふらふらと立ち上がり、俺は次の数学の講義が行われる講義室に向かう。 数学にもきっと、エドアルドはいないだろうな……これも、一年目でとるものだし。 広い講義室に入り思わず視線を巡らせる。だけどエドアルドの姿は見つからなかった。 なんで俺、エドアルドの姿を探しちゃうんだろうな…… 誰かにこの不安を話したいのかもしれない。 もしかしたらあいつは暗殺者かもしれないのにな…… そう思い、俺は首を横に振る。 そんなことないよな? エドアルドに人を殺せるわけないよな? あー、頭の中おかしくなりそう。 エドアルドは暗殺者かもしれないし、俺はもう死んでるのかもしれない。 そんなの誰にも話せないよ…… そう思い俺は、大きくため息をついて机に突っ伏した。 「ルカ」 聞きたくて聞きたくなかった声が聞こえ、俺はばっと顔を上げて横を見る。 俺の座る席の横に、エドアルドが座っていてこちらをじっと見つめていた。 「え……あ……エドアルド……?} 「なんでそんな驚いた顔をしているんだ?」 不思議そうな顔で言われ、俺は何を言っていいのかわからず口をパクパクさせる。 するとエドアルドの手が俺の顔に伸びそして、頬に触れた。 エドアルドの手はとても冷たい。 彼は俺に顔を近づけると、心配げな表情になり言った。 「顔色悪いけど、何かあったのか?」 「う、あ……えーと……だい、大丈夫」 どきどきしながら俺はエドアルドの手から逃げると、彼はそのままの格好で固まり俺の方をじっと見た。 や、やばい、かな……て、何がやばいんだよ、わけわかんないよ。 エドアルドは手を引っ込めて、 「ならいいけど」 と言い正面を向いた。 何か変に意識して、思わず手から逃げちゃったけど、まずかったかな…… 俺はエドアルドの様子をうかがうけれど、その表情からは何も読み取れない。 そもそも俺は、エドアルドについてよく知らないから、素の顔がどんな顔なのか分かんねえんだよな。 そのことに気が付いて俺は、さっとエドアルドから視線をそらし、机に出したノートと教科書を見つめた。 誰かと話したかった。 誰かにそばにいて欲しかった。 でもいざそばに人が来ると何を言っていいのかわからない。 エドアルドは暗殺者なんだろうか。 叔母を殺したんだろうか…… そう思うと小さく身体が震えだす。 「……エドアルド」 「何?」 横を向いて声をかけると彼はこちらを向いてにこっと笑う。 俺は緊張しながら考えてそして、 「今日、昼飯一緒にどうだ?」 と上ずった声で尋ねた。 「あぁ、俺もそう思っていた」 優しい声音で言われて俺はほっとする。 「ならよかった」 そう俺が答えたとき始業のベルが鳴り響き、学生たちはあたふたと椅子に座る。 慌ただしい中教授が入ってきてそして、講義が始まった。ワインを三杯飲んで、チーズも食べて。いい感じに酔ってきた。 俺は空になったグラスをテーブルに置いて、エドにしがみ付いた。「エドー」「おっと」 エドがちょっと驚いたような声を上げたあと、俺の肩をそっと抱いてくれる。 俺はエドの顔を見上げて言った。「一緒にいてくれてありがとー」 そして俺は顔を近づけて唇を重ねた。 触れるだけのキスをして、俺は彼の胸に顔を埋める。「酔っぱらうともっと可愛いね、ルカ」 面白そうに言いながらエドは俺の頭をゆっくりと撫でた。 その手つきが気持ちよくって思わず声が漏れてしまう。「んー……」「ルカ」 うっとりとした声で俺を呼んだエドは、俺の顎をとって上向かせるとキスをしてきた。「ん……」 すぐに俺の口の中に舌が入ってきて、ぴちゃぴちゃと唾液が絡まる音がする。 ちょっとお酒の味がしておいしい。「エド……」 俺はエドの首に腕を絡めて自分からもキスを求めた。 エドの手が俺の背中に回って、服を捲り上げて背中を直に撫でまわす。「んン……あ……」 キスの合間に声を漏らすと、エドは喉の奥でくつくつと笑い唇を離して俺を見つめた。「ルカ……もしかしてしたくなってる?」「う、あ……」 エドの、絡みつくような目で見つめられてそれだけで俺の中心に熱が溜まっていくのがわかる。 やべえ……漏れ出る息はすっげー熱い気がするし、体温も上がってきているっぽい。 シたい。でもまだ風呂、入ってねえし。できればもっとこうしていちゃいちゃしていたい。 だから俺はエドの目を見て言った。「ねえ、もっと気持ちいい事したい」「うんじゃあ……ワイン、飲ませてあげる」 と言い、エドはグラスへと手を伸ばすとそれを口に含み、そのまま俺に口づけてきた。「ん……」 エドの唇の隙間から俺の口の中にワインが流れ込んできて、俺はそれをがんばって飲み込む。だけど口の端から漏れ出てしまい、それが顎へと伝っていくのがわかった。「あーあ、漏れちゃった」 面白そうに言い、エドは俺の口からも漏れたワインをぺろぺろ、と舐める。「あ……あぁ……」 ざらり、とした舌が俺の唇を、顎を舐め回し、首にまで下りていく。「え、あ……あン」 俺の声が漏れるのもお構いなしに、エドは俺の首を舐めた。「ひ、あ……あぁ」「ん……おいしいよ、ルカ」 うっとりと言い、エ
真っ白な帆に風を受けて船が海の上をゆっくりと移動していく。 スタッフさんが言った通り、船が動き出した時はけっこう揺れた。 ギシギシ、って音がしてちょっと怖かった。陸がどんどん遠くなっていくのが見える。 陸にはさっき俺たちがシーグラスを探した砂浜やホテル、それに町が見える。 すげえ、海から町をこうやって見るの初めてかも。 どんどん遠くなる町から俺は首を動かしておきの方へと目を向けた。 どこまでも続く海と、島が点在している。「小さい島、いっぱいあるんだな」 俺が呟くとエドが言った。「うん。昔はもっと大きかったらしいけど波で削れちゃったらしいよ」「へえ」 なんだろう、この光景どこかに似てる。日本三景だっけ。それにあったような。 船はその小さな島の間を縫うようにして海を渡っていく。 そこまで来ると揺れはだいぶおさまり、俺たちは甲板を移動して船の後ろの方へと行く。 そこには小さなお店があって、飲み物やお菓子を販売していた。 メニューを見るとクッキーとかコーヒーなどの文字が見える。「お店あるんだ」「ね。何か買おうか」「うん」 せっかくだし、と思って俺たちはその店に近づいて冷たいカフェオレとドーナッツを購入した。 そして甲板にある椅子に腰かけて海を見ながらそれを食べる。 酔うんじゃないかって不安だったけど大丈夫だった。デカイ船だからかな。 頭の上を白い鳥が旋回している。なんか狙ってんのかな。って思ってると海へと飛び込んでいくのが見えた。 「おおー」 っていう、乗客の歓声が上がる。なにがあったんだろ。 するとエドがカフェオレを飲んで言った。「鳥が魚掴んで出てきたのかな」「あ、ほんとだ。あの鳥口に魚くわえてる」 俺は頭の上を飛んでいる鳥を見つめて言った。 鳥は魚を飲み込むとまた旋回して海へと飛び込んでいく。 すげえ。こんなの見たの初めてだ。「夕食で魚料理がでるよ。海沿いだし、きっとすごくおいしいよ」「あ、そっか。すっげー楽しみ!」 ここに来て山いったり海に来たりして楽しい事、多いなぁ。 約一時間近くの航海をして、陸へと戻る。 帰りにシーグラスを加工してアクセサリーを売ってる店によって、日が暮れてくる。 太陽が海の向こうに沈んでいくのが見えて、俺はじっとその様子を見つめた。 夜空に星が輝いているのが見える。
ホテルを出て俺たちは砂浜へとおりる。 夏の始まりとあって日差しはちょっと強いけど海からの風が半端なく強い。「風やばいっ」 言いながら俺は思わず隣を歩くエドの腕を掴んだ。 辺りにはちらほらと人の姿があって、波打ち際に立ったり砂遊びをしている姿が見える。「きらきらあったー!」 そう声を上げた子供が、拾ったものを太陽にかざしているのが見える。 なんだろうあれ。きれいな、緑色をした丸い石みたいだった。宝石みたいにキラキラしてる。「なんだあれ」 宝石なんて落ちてるんかな、こんなところに。「シーグラスかな」 エドの呟きに俺は不思議に思ってエドの方を見た。 彼は俺の方を見て説明してくれる。「シーグラス。ガラスが波で削れて丸くなったものだよ。長い時間、長い距離を旅してここにたどり着いたんじゃないかな」「へえ、まじで? 知らなかった」「まあそんなにたくさん落ちてるわけじゃないけど、子供には宝物だよね」 と言い、エドは笑う。 確かにあんなキラキラしたやつ見つけたら宝石みたいに思うよな。実際あの子はめちゃくちゃうれしそうにお母さんに見せてるし。 「宝探しみたい!」「あはは、そうだね。せっかくだから探してみる?」 その提案に俺は心を弾ませて大きく頷いた。 砂浜にはちらほらと石が落ちている。でもキラキラ光る石はなかなか見えない。「あ、貝」 虹色に光る貝を見つけて、俺はその場にしゃがんでそれを手に取った。 手のひらに乗る小さな貝だ。何の貝かはわかんねえけど。「そういう貝も見つかるよね。何だっけ。潮干狩りっていうんだっけ。砂の中から貝を見つけるやつ」 言いながらエドが俺のそばにしゃがみ込んだ。「潮干狩りは知ってる!」 一回だけやったことある。それは日本人の、春野京佑としての記憶だけど。「小さい頃一度だけ連れてこられたことがあるよ」 そう言い、エドは砂を手ですくった。「へえ、俺も小さいとこに一回だけやったことあるよ、潮干狩り。それも宝探しみたいで面白かった」「そうなんだ。じゃあその時期に海、来てみようか」 「俺はエドと一緒にいれば何でも楽しいよ!」 俺は貝を握りしめて砂の中を探した。 さらさらの砂で掘っても掘っても延々と砂が穴を埋めてしまう。 「俺も、ルカと一緒にいると楽しいよ。楽しそうに砂の中探してるのも可愛らしい
マリアの見合い相手はマリアを気に入ったみたいで、また会う約束をしたらしい。 マリアが何人と付き合ってるのかわかんねえけど、誰とエンディングを迎えるのか楽しみなような怖いような気がする。 つうか何人いるんだ、キャラ。 俺の見合いも近づく中、その前にイベントがある。 それは俺の誕生日だ。俺の誕生日は六月の終わりだ。見合いはその直後に予定されている。 だからその前に俺はエドと会う約束をしていた。 エドには土日、泊まるからあけるように言われただけで詳しいことは聞かされていない。 何するんだろうなぁ。どこに泊まるのかも教えてくれねえし。 そして楽しみにしていた週末がやってきた。 旅行用のカバンに服を詰めた俺は、迎えに来たエドの家の車に乗り込んだ。 エドは俺を見るなり微笑んで言った。「ルカ、おはよう」 黒地の半袖シャツを着たエドが俺に手を振る。「おはよう、エド。なあどこに行くんだ?」 車に揺られながら俺はエドに尋ねた。 彼は俺の太ももに手を置き、言った。「海辺にあるホテルに泊まろうと思って」「ホテル?」「うん。家じゃゆっくりできないし、別荘は夏に行きたいし。だから今日は海のホテルに泊まるんだ。ルカは船、大丈夫だよね?」「たぶん」 大丈夫、って言えるほど船に乗ったことがないけど。だって俺が住んでいた地域に海、なかったから。 ちょっと不安な色が浮かんだんだろう、エドが膝に置いた俺の手に自分の手をそっと重ねる。「無理はしないでね。乗れたらな、位だし。大きい船だから大丈夫だと思うけど」 そういうもんなのかな、ちょっと心配だけどでもエドと一緒だもんな。 俺は重ねられた手とエドノ顔を見比べて言った。「そうだな、うん。楽しみにしてる」 そう答えると、エドは頷き俺から手を離した。 車に揺られること一時間以上だろうか。 一回休憩をはさんだとはいえ、けっこうな距離だった。 車がついた先、それは海沿いのホテルだった。 二階建ての大きな洋館。深い海みたいな濃い青い屋根が特徴的だった。「すげえ……」 なんか高そう。っていうのが正直な印象だった。 ドアマン、っていうのかな。帽子をかぶったホテルのスタッフが荷物を運んでくれる。 受付で俺たちを出迎えた年配の男性は、にこやかに笑い言った。「カルファーニャ様お待ちしておりました」 そ
六月に入って、夏の始まりを感じるようになった。 ちょっと話せる同じゼミの子たちに聞いたら、皆見合いの話はあるらしい。中には結婚が決まっているやつもいて驚いた。 だってまだ、二十一歳だぞ? それでもう結婚なんて……いやでも、俺の父親、十八歳で駆け落ちしたんだっけ。それを思い出すとなんか変な気分だった。 よく十八で駆け落ちしたな。しかも王子なのに。世間のことなんてろくに知らなかっただろうに。 普通に仕事して俺たち育てて。すげえなほんとうに。 そして迎えたマリアの見合いの日。 なぜか俺と国王陛下が同行することになった。 着慣れないスーツを着て、ドレス姿のマリアと共に王宮の一室でその時間を待っていた。 俺の隣に座る、淡いピンク色のドレスを着たマリアは緊張しているみたいで、膝の上で両手をぎゅっと握って微動だにしない。大丈夫か、これ。 用意されたお茶に全然手をつけてねえぞ。 俺は心配になって、お茶の入ったカップを手に持ち言った。「……マリア?」 すると、マリアは大げさにびくん、と震えて驚いた表情で俺を見る。「な、な、な、何?」 すげえ上ずった声でマリアは言った。 そんな様子を見て俺は尚更心配になってくる。「大丈夫? なんか緊張してる?」 俺の問いかけに、マリアは不安の色を浮かべて大きく頷いた。「だって、お見合いだよ? 緊張するよぉ。おトイレ行きたくなったら嫌だから、飲み物飲むのも怖いし」 と言い、泣きそうな顔になる。そんなにか。 まあ俺も本番になったらたぶん緊張するだろうけどさ。 俺はちょっと悩んでカップをテーブルに置き、マリアの方を向いて震える肩に触れた。 すると大げさにまた、びくびくっと震えてじっと俺の方を見る。「大丈夫だって。会って話するだけなんだから」「でも国王陛下が一緒なんだよ? 大丈夫なわけないじゃないの」 それは確かに普通の見合いと違うなぁ。そう言われると俺、何も言い返せなくなる。「だい、じょうぶだって。うん、大丈夫。国王陛下が一緒っていったってずっと一緒にいるわけじゃねえんだし。公務だってあるんだからさ。だから大丈夫!」「でもぉ」 と、マリアは不安げに瞳を揺らす。 そんなやり取りをしていた時だった。 扉を叩く音がして、俺たちは大げさにびくついた。 中に入ってきたのは王宮の執事だった。 「お時間
とりあえずエドに見合いの事を言えてよかった。 でも心配は消えない。 屋敷に帰って明日提出予定のレポートの用意をしていると、扉を叩く音がした。 来たのはメイドで、マリアがお茶を一緒に、と言ってるらしい。 俺はレポートを持って妹の所に向かった。 一階の、いつも俺とマリアがお茶を飲む部屋。 床に座りこんで何かを書いているマリアの姿がそこにあった。 マリアは俺の姿を見ると、大きく手を振った。「あ、お兄ちゃん!」「マリアお帰り」「うん、ただいま。今お茶とケーキ、用意してくれてるからもう少し待ってね」 と言い、マリアはニコニコと笑う。 この様子だと、マリアは俺の見合い相手のこと知らねえんだろうなぁ。 だまっとこう。 俺はマリアの向かいに座り、テーブルにレポートを置いて続きを書き始めた。「お兄ちゃん、宿題?」「うん、まあそんなもん。マリアは何書いてるんだ?」 そこで初めて俺はマリアが書いている物を見る。 それはスケッチみたいだった。 人形の服かな。 ドレスの絵がいくつか書いてある。わりとうまい。「これはねー、お人形のお洋服なんだー。部活で作るんだけど、どんなデザインにしようかなって思って」 言いながらマリアは紙に絵を描き始める。「へえ、そう言うのも考えるんだ」「うん、そうだよ。芸術祭に出品するから」「芸術祭なんてあるんだ」 マリアの顔を見ると、彼女は大きく頷く。「うん。夏にあるんだー。去年は一年生だったから出してないけど今年は出すんだー」 マリアはスケッチを見つめてどうしよう、って呟く。 そんな妹の姿を見て、ちょっと安心する。とりあえず充実してるんだなぁ。 マリアにも見合いの話があったと思うんだけど、どうしたんだろう。「マリアは見合いするの?」 俺の言葉に、マリアはピタッと手を止める。 そして、うーん、と呻った後顔を上げて苦笑した。「そうねぇ。国王陛下の紹介だし断るのはちょっと……」「だよなぁ……」 やっぱりそう思うよな。俺もそう思うもん。 マリアはうんうん、と頷いて言った。「だからとりあえず会おうとは思ってて。来月にはお相手と会うことになったみたい」「来月かぁ……俺、まだ何にも言われてねえぞ」 いつ会うか、なんて話はしてない。たぶん。 するとマリアはちょっと驚いた顔になる。「あれそうなの?